背景と目的
バングラデシュは民衆を苦しめてきた独裁政権が学生革命によって打倒されたというニュースはご存じでしょうか。
Ahmmed Shaki氏は、大学で演劇を教える教師であり、劇団に所属する役者です。当時政府に禁じられながらも、Shakiは学生たちを支援する活動を行いました。当初行われていた就労問題に関する平和的な抗議活動に対する弾圧で2000人の若者が殺され、抗議の内容が首相の退陣要求に変わると、さらに多くの人が殺されたとShakiは言います。
Shakiたちも劇団のメンバーと共に犠牲になった人々の名を記した布……それは100mにもなったそうです……を手にデモ行進を行い、路上劇の上演を敢行して独裁政権の横暴を訴えました。
「同じ目的を持った多くの人々が路上にいるのを見て、私の血の中に大きな火花が散ったように感じ本当に感動しました。私たちの国の恵まれない惨めな人々のために、今日は死ぬかもしれないと思いました。いつ弾丸が胸を貫通するかと思いましたが、私は怖くありませんでした」
15年に渡って政権を握っていたハシナ首相が国外へ逃亡したのは、その二日後のことでした。
”アートは世界を動かした”のです。
独裁政権は倒れたものの、バングラデシュには社会問題が山積しているとShakiは言います。腐敗、政情不安、失業問題、中でも劣悪な教育システムは大きな問題です。
「私たちには優れた教育システムが必要だと思います。日本はそのために良い政策を建てる手助けをすることができます。私たちが新しい世代を光の道に導くことができるような教育システムを実装するための支援を日本は提供することができます」
演劇人にして大学で演劇教育に携わっているShakiには3つの目的があります。
一つ目は、芸術家として日本文化に関心を寄せるShakiは、日本の文化や哲学、演劇技術を学び、バングラデシュに持ち帰りたいと望んでいます。
二つ目は、バングラデシュの現状を訴える講演と、それをテーマとしたパフォーマンス作品の公演を行うこと。
そして三つ目はその二つが合わせった相互文化交流です。
相互文化交流の象徴的なアクティビティとしては堺国際市民劇団とのコラボ公演を予定していますが、Shakiとやりとりを重ねる中で、より意義の深い活動に深化させられる可能性に私たちは気づきました。
バングラデシュと日本、両国が現在抱えている社会問題とそれにアーティストやアクティビスト、市民がどう立ち向かい関わっているかを話し合い、議論を深めていくことで、それぞれに問題解決の糸口を与えるのではないかということがひとつ。
そしてもうひとつは、何よりも協働活動により、互いが長く積み上げてきた文化や哲学を奥底から理解し、深い繋がりを得ることで、文化的に多様で精神的に豊かな社会へと一歩進むことができるのではないかということです。
アートは混沌とした世界情勢を切り拓く力がある。私たちはそう信じています。
Shakiは日本で学んだことをバングラデシュに持ち帰り学生たちに伝えるでしょう。「演劇は変化をもたらすツールである」と語るShakiは、バングラデシュの問題について国際的な注目を集めるために、新しく得た力を使うことでしょう。